カウンセリングで何度も注意事項を説明する理由

僕は、カウンセリングをはじめるとき、まずは注意事項の説明からはじめます。


実際には、こういう感じでやっています。


「さて、Aさんは、カウンセリングを受けるのってはじめてですかね?」

「はい。はじめてです」

「じゃあ、メールにも書かせてもらったんですけど、簡単に注意事項を説明してもいいですか?」

「はい」

「まず、カウンセリングには守秘義務がありますので、今日お話しいただいたことを、無断でどこかで話すことは絶対にありませんので、安心してどんなことでも話してくださいね」

「はい」。

「あと、こういうのは仕事と関係ないかな~とか、こういうこと話すのはちょっと恥ずかしいな~と思うことも、もしかしたらあるかもしれませんけど、う~ん、まあ…、あの、あまり難しく考えずに、思い浮かんだことをそのまま口にしてもらうのが、一番うまくいくかなと思います」

「はい、ありがとうございます」

「最後に、予約時間がだいたい1時間ほどになりますので、これだけ絶対に相談しておきたいな~とか、これだけ絶対に質問しておきたいな~と言うことがありましたら、忘れないように注意してもらえたらなと思います」

「はい」

「それでは相談内容の方なんですけども、お申し込みのときに書いていただいたのも読ませいていただいたんですけど、ちょっと詳しく相談内容を話してもらっていいですかね」


「はい。え~、申込時に書いたとおりなんですけど…。

まあ、今の仕事を続けていくのがしんどいなって感じてて…。

でも、前の仕事やめて今の仕事に就いたときも、今の仕事の方が向いていると思って入ったんで、なんかほんとにこれでいいのかなっていうか。
今やめても同じことになるんじゃないかなって思って…」


こんな感じで始めています。


はじめて相談に来られる方に、守秘義務について説明するのはとても大事です。

守秘義務が守られているということを、ちゃんと口にして確認するだけで、相談者さんはずいぶんと安心するものです。

これはほぼ必須といっていいくらい、いった方がいい言葉です。


(自傷他害の可能性がある場合は、守秘義務の範囲外になります。

ですが、それをいきなり口にすると相談者さんがぎょっとしてしまいます。

なので、このあたりは申込時のメールに書く、もしくはサイトに書いておくのがいいと思います)

 

 

申込時と違う相談内容も話しやすいように配慮する


あと、うちは仕事の相談が主なのですが、仕事って人生のいろんなことと関連してます、


夫婦関係、婚活、妊活、離婚、自分の性格、劣等感、幼いころの家族関係、いじめ、それから心の病。

仕事の悩みの背景や根源に、それらのことが関係していることはとても多いです。


たとえば、

「どうしてもやりたいことが見つからない…」

そんな相談の背景にあるのが、



「今の仕事は辛いし、やりたいことを仕事にしたいという気持ちは、ずっとある。



でも、結婚や妊娠も自分の年齢を考えると、タイムリミットが限られている。

やりたいことを仕事にするために時間を使ったら、結婚や妊娠をあきらめなきゃなるかもしれない。



でも、そもそも今お付き合いしている人もいないのに、そんなこと考えても仕方がないとも思う。

それでもやっぱり妊娠や結婚のことが頭から離れないし、婚活もしなきゃと焦ってしまう。



働いて婚活しながらやりたいことを仕事にするために勉強するなんて無理だ。

というか、もう何から手を付けていけばいいのか、いま何をしたらいいのかわからない…」



そんなことだったりします。

 


実際、今の時代、こういう相談はとても多いです。



男性でもこういう悩みは多くて、

「仕事を辞めてやりたいことに挑戦したいけど、いまより収入が下がると思う。

そうなると結婚できなくなってしまうのではないか…」

そんな相談者さんは多いです。


こういうときに、こちらが思っている以上に、

「申込時の内容に書いた内容しか話しちゃいけないのかな…」

と思う相談者さんがおられます。


なので、昔はよく、

「ああ、話がそれてすみません。仕事と関係ないですよね」。

「いやいや、いまのお話、とても大事なことだと思いますので、よろしければもう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

というやりとりがありました。


そこで僕は、最初の注意事項の段階で、

「あと、こういうのは仕事と関係ないかな~とか、こういうこと話すのはちょっと恥ずかしいな~と思うことも、もしかしたらあるかもしれませんけど、う~ん、まあ…、あの、あまり難しく考えずに、思い浮かんだことをそのまま口にしてもらうのが、一番うまくいくかなと思います」


という言葉をつけ加えました。

これに関しては、とてもうまく機能していると思います。



ついでに、申込時のメールのやりとりにも、

「恋愛や学生時代のこと、家族関係など、仕事と全く関係ないことが思わぬヒントになることがあります。

なので、仕事とは関係ないかな~と思っても、思い浮かんだことをそのまま話していただくのが、一番うまくいくと思います」

こんな感じのことを書いています。


申込時のメールでこれを書いているのも、うまく機能していると思います。

 

 

 

最初に質問しやすい雰囲気を作っておく


それから、

「最後に、予約時間がだいたい1時間ほどになりますので、これだけ絶対に相談しておきたいな~とか、これだけ絶対に質問しておきたいな~と言うことがありましたら、忘れないように注意してもらえたらなと思います」

ここも意外と重要です。


時間をちゃんと区切ることは、相談者さんのことも、カウンセラーのことも守ることができます。

いわゆる時間の構造化というやつです。

(これはちょっと難しいので、そのうちまた話す機会があればと思います。)


意外なのは、

「質問したいことがあれば、忘れないよう注意してくださいね」

という一言です。


実は、かなり昔のことですが、カウンセリングの終わりに、こんなやりとりがありました。


「お時間が来ているので、今日はこの辺にしておきましょうか」

「あの…、中越さんは、私のことをどういう人間だと感じましたか?」

「え?う~ん、そうですね。ちょっと待ってくださいね。

う~ん、今日のお話を聞いて僕が感じたことは、いまのお仕事の環境は、相当に辛いだろうなということです。

むしろ、よくいままで長い間、耐えてくることができたなと感じました。

そのうえで、やめるときもなるべくきれいにやめたいとおっしゃっていて、お世話になって人には迷惑をかけたくないとおっしゃっておられたのが印象に残っています。

う~ん…。

それってすごく誠実なことだと、僕は感じたんですね。あくまで僕の個人的な感想なんで、聞き流す程度に聞いて欲しいんですけど…。

お世話になったとはいえ、それだけひどい状況に追い込まれたわけでもあるのですから、ぱっとやめちゃう人の方が多いんじゃないかと、いや、そういう人が大半じゃないかなって。

それを考えると、この状況でもお世話になった人に対してきれいにやめいっていうのは、すごく誠実だなって。

そうですね。誠実な人だなっていうのが、すごく印象に残りました。

う~んっと、僕、うまく伝えられていますかね?」

「はい、はい。大丈夫です。ちゃんと伝わっています」

「これが正しいのかどうかはわからないけど、僕は誠実な人だなって感じたんですけど、どうしてですか?」

「あの、祖母や母から、人に迷惑をかける人間にだけはなっちゃいけないって、ずっといわれていて…。

前職をやめたときに、仕事を途中で辞めるなんてそういう人に迷惑をかけることはしちゃいけないっていわれたんです。

あの、祖父が自営業をしていて、そういうことで大変なことがあったからかもしれませんが、幼いころからそういうことをずっといわれていたんです。

いまは適応障害っていわれてるんですけど、それも自分の考え方や性格から来ているのかなって。

そしたらそういう考え方や性格を直さないと、人に迷惑をかけることになるんじゃないかなって…」


「ああ、なるほど。そういうことでしたか。

それで心の病になっても、こんなに長い間我慢をして働き続けてきたのですね。

なんだかいまのお話を聞いて、やっと今日のお話の意味がわかった気がします。

あの、カウンセラーがこんなことを言うのが正しいのかどうかわかりませんし、ええと、僕たちカウンセラーは相談者さんを誘導するようなこといっちゃいけないんです。

でも、僕は今日のお話を聞いて、誠実な人だと感じました。決して人に迷惑をかけるような人ではないと、そう感じました。

そのことは僕の本心から出てきたもので、全く嘘偽りがない気持ちです。そのことだけは絶対に保証しますよ」

「そういっていただけて、本当に安心しました」


こういう感じで、最後の最後の質問で、急にカウンセリングの本番がはじまることがあったのです。

それもかなり多くありました。

よく考えてみれば、自分が相談者の立場になっているときも、本当に相談したいないようって、なかなかいいにくいことが多く、最後の最後まで取っておくことが多かったです。

なんだかお子様ランチのエビフライみたいですが、本当の悩みほどいいにくくて最後にとっておいてしまうというのは、なんとなくわかる気がしますよね。


そして、最後まで取っておいて、時間切れになってしまい、本当に相談したい内容を話せない。

そういうこともよくあることです。


なので、僕はカウンセリングの最後に、

「さて、そろそろお時間なのですが、最後に何か質問しておきたいことはありますか?」

というようになりました。


そうなると自然と、最初の注意事項にも、

「これだけ絶対に相談しておきたいな~とか、これだけ絶対に質問しておきたいな~と言うことがありましたら、忘れないように注意してもらえたらなと思います」

というようになったわけです。

これもできる限り、伝えておいた方がいいかな~と思います。

 

 

 

何回も来てくれてる相談者さんにも毎回説明する理由


で、この注意事項なんですけど、初回の1回だけ説明すればいいと思うかもしれません。

実際、そうやっている人も多いと思います。

ただ、僕の場合は、できる限り毎回これを説明しています。

もしかしたら、長くうちに通ってくれている人のなかには、もううんざりしている人もいるかもしれません。

それでも、僕はこれを毎回説明するのは、とても大事なことだと思っています。


というのも、5回目、10回目のカウンセリングで、急にすごく話し難いであろうことを、話してくれることがあるのです。


たとえば、幼いころに虐待を受けた、学生時代にいじめにあっていた、性的な問題を抱えている、家族に大きな問題を持った人がいるなどなど。

「すごく能力があって、実績も出している人なのに、なんでこんなに自信がないんだろう?」

カウンセラーがそう感じていても、なかなかそこに踏み込むタイミングがつかめないことがあります。

相談する側にとっては、安易に踏み込まれたくない部分であり、何度かカウンセリングを重ねたあとでしか、話したくないことなのでしょう。

早い段階無理に聞き出そうとしても、あまりうまくいくことはありません。



それどころか、

「このカウンセラー、なんだかズケズケ入ってきて、話しにくいな…」

そう思われることがあります。


こういうセンシティブな内容は、あくまで相談者さんのペースで進めるべきです。


そこで大事なのが、毎回、この注意事項を説明することです。


当初の相談内容である仕事に関係ないことでいい。

思い浮かんだことは、どんなことでも話していい。

守秘義務があるので、誰にもバレる心配がない。


相談者さんは、自分が話しにくいと思っている内容を、

「やっぱりこのことが関係している気がする…。

でも、こんなこと話ていいんだろうか…。

変に思われたり、最初の相談内容と違うと思われたりしないだろうか…」


そういう気持ちを抱えながら、話すべきかどうか、ずっと迷っておられます。

それは相談者さんの意識にすら上っていないけれど、どこか感覚的にそう感じているのです。

(これも自分自身がカウンセリングを受けていれば、なんとなくその感覚がわかると思います)


そういう内容のことを話すのは、どのタイミングが適切なのか?


それは相談者さんにもカウンセラーにもわからず、その日、その時、その瞬間にならないと、誰にもわからないことです。


なので、毎回、守秘義務やどんな内容のことを話してもいいということを、説明しておく必要があります。


それによって、安心感や話しやすい雰囲気を作り出す必要があるのです。

注意事項を何度も話す理由は、ここにあるんです。

これはめんどうくさくても、毎回、話した方がいいと思います。



時間にすれば、たった数十秒で終わること。

それなら毎回話した方が、得というものです。


さて、最後に、こちらが注意事項を話す前に、相談者さんが相談内容を話し始めることもあります。

そういうときは、相談者さんの話をさえぎってまで注意事項を話す必要はありません。



あくまでその相談者さんのペースに沿っていく。

それを意識してもらっていれば、大丈夫だと思います。